visiters since 2007/10  

兵庫県立東洋医学研究所・同附属診療所

東医研だより

第5号2008年4月1日兵庫県立東洋医学研究所


WHOと鍼灸

世界保健機構(WHO)では、早くから伝統医療は主要な医療手段であり、必要不可欠な医療資源であると注目し、とくに鍼は伝統医療の主要な分野の1つと位置づけて、鍼治療の国際標準化を支援し、臨床経験に基づいて鍼灸の適応疾患リスト(43疾患1979年、49疾患1996年)を提起しております。

欧米における鍼灸の普及

アメリカでは、10年前に国立衛生研究所(NIH)が鍼業界や連邦当局から独立した専門家を召集し、「鍼に関する合意のためのパネル会議(1997.11)」を開催しました。そこで鍼の有効性、安全性、研究の方法論、保健医療体系に組み入れるための課題などが討論され、西洋医学とは別の体系の医療行為として評価する合意声明が発表され、そのことが、アメリカのみならず、世界の鍼灸の普及に一定の影響を与えました。 その後、イギリスでは2000年に医師会が中心となって、鍼治療に関する臨床研究を2年にわたって評価を行い、報告書を提出しました(英国医師会雑誌2000.7)。その中で「腰痛、嘔気・嘔吐、片頭痛、歯痛については、対象群よりも効果があることを示唆するエビデンスがある」と述べ、さらに英国の医療システムへの鍼治療の導入、研究などについて具体的な勧告を行っております。ドイツでもここ数年、ドイツ保健局の発議により健康保険組合が鍼治療の臨床試験に莫大な研究補助金を拠出しており、その結果が有名医学雑誌に掲載されるようになりました。このように、鍼治療はかなり国際化しているといってよいでしょう。

曽 炳文


「月とすっぽん」

夜空に浮かぶ満月を見て何を想いますか?偉大な科学者のようにリンゴでしょうか、古代の語りのように月に帰っていく美しき姫でしょうか、それとも人類の足跡を残した文明への敬意でしょうか、満月を見つめていると不思議に想念が深まるように思えます。しかし、月より団子、月とすっぽんなど月から食べ物を思い浮かべた人は私と同類かもしれません。 「月とすっぽん」二つのものがかけ離れているたとえとしてよく耳にする諺です。江戸時代の随筆「嬉遊笑覧」に、「月は丸きものなれど、丸と呼ぶスッポンとはいたく異なるるなり」という一文があり、この諺の由来になっているようです。丸い満月と、甲羅が丸いすっぽん。同じように姿は似ているが、雲に隠れる美しい月と泥に隠れるすっぽんとは「雲泥の差」があるということでしょうか。

えもすれば、ゲテモノと負のイメージがある剽軽な名前のすっぽん。古代中国では水を支配する動物と考えられていました。わが国においても、明日香村で亀形の石製水槽が見つかっており、水の祭祀に関連した飛鳥時代の遺構と推測されているそうです。

去年の忘年会で、ふぐ鍋とすっぽん鍋を食べ比べるという贅沢を経験しました。鍋、雑炊と宴が進むにつれて、すっぽんの勝ちということで皆の評価が一致し、すっぽんは体に染み入ってくる深さが違うと絶賛!おまけに、挨拶に来られた女将さんの肌が潤い艶やかなこと。事実、すっぽんにはコラーゲンやビタミンが豊富に含まれており、しかも水分が多く低カロリーであることから近年美容食としても注目されているようです。

東洋医学でもすっぽんは漢方薬として重用されてきました。土別甲という生薬で、すっぽんの甲羅を用います。土別甲には、体の水分が少なくなって発熱や乾燥症状が現れる時に、乾いた体を潤し熱を冷やす作用があると言われます。やはり、漢方においてもすっぽんは水と深く関わっています。

生命の源としての水、淡水の中で静かに棲む丸い生き物。その水面に満月が映る時、「月とすっぽん」という言葉はまた違う印象を与えてくれるように思えます。

松川義純


鍼灸の道具箱 艾について(その2)

前回ヨモギの精製度の違いにより、荒もぐさと上質なもぐさのお話をしました。写真で見るように見た目でも違いがわかります。

右端の直接灸に用いる良質の艾は夾雑物が無く、良く乾燥されているもので、燃焼させると香りも良く直接据えても傷も小さく、水疱もできにくく熱痛も穏やかです(もちろん柔らかく上手に半米粒大にひねった場合です)。

昔から極上級のもぐさは「三年晒艾」、「七年晒艾」といって珍重されています。古来艾葉には「気血を暖め、経脈を暖め、寒湿を去り、冷痛を止める作用がある」といわれています。本草綱目(中国明代の薬物書・李時珍著)に「もぐさは陳久なものを用いること、生もぐさを用いると人の肌を傷つけやすい」といっています。

吉田剛典


シリーズ 関節リウマチの漢方・鍼灸治療(1)

関節リウマチ、なかでも早期リウマチ(早期関節リウマチ)は漢方をはじめとする東洋医学治療のみで病気の進行をおさえることができるケースがめずらしくありません。

西洋医学の世界では関節リウマチの治療はここ数年たいへん様変わりしました。発症まもなくから関節の破壊が進行することがわかってきたためです。早期リウマチと診断がつき次第、抗リウマチ薬を使って治療をしよう、ということになったのです。

ところが抗リウマチ薬は一般の消炎鎮痛剤とは違って4人に1人以上という高い頻度で副作用が出ることがわかっています。その副作用も肺、腎臓、血液、肝臓、など重いものです。なのに症状が軽い、ごく早期から、このような重い副作用がある薬を使用しましょう、ということが決まったのはリウマチが、単なる関節炎というのではなくて、

という性質(たち)のわるいしつこい疾患だからです。

漢方薬が早期のリウマチにたいそう効くことは十年くらい前から気づいていました。が、すでに病気が進んだリウマチを漢方のみで治療するのはやはりむづかしいのが現状です。上に書いた西洋医学治療の様変わりをみまして、いよいよこれは"漢方の出番"だと実感します。実際、私の患者さんの1割、東洋医学科全体では200名近いリウマチの方が治療をうけておられます。

病初期の治療のファーストチョイスは漢方薬。リウマチの漢方治療の特徴を次にあげます

  1. 早期リウマチでは単独で病状の進行を阻止できるケースが多い。
  2. 副作用が非常にまれ。
  3. 検査成績に反映されない程度の関節の腫張疼痛等の増悪を抑えるのに適するので早期だけなく進行したリウマチでも抗リウマチ薬の使用量を減らすことができる。
  4. 身体のしんどさ(全身倦怠、意欲低下)を取除く。

漢方治療を始めたら、身体が楽になった、軽くなった、という言葉は日常的に聞きますが、頑張り屋さんが多いリウマチにおいては殊に強調される方が多いのです。

次回は「漢方のリウマチへの具体的アプローチについて」です。

西森婦美子


編集後記

病院周辺の公園でも桜が咲きかけて来ました。いよいよ春本番、新年度の始まりです。 鍼灸や漢方薬について知りたいことや疑問に思うこと、或いは東医研に対する御意見ご要望があればどしどし編集部まで御連絡下さい。

吉田剛典
監修 松田康平